過酸化水素水のメリット
ハイブリッドロケットに用いる酸化剤としては、気体酸素や液体酸素、亜酸化窒素などがあります。しかし、どれを取ってみても安全管理や取扱面でデメリットが存在し、完璧な酸化剤とは言い難いです。その中で過酸化水素水は常温で液体のまま保存ができ、低価格で入手できることから、ハイブリットロケットの安全性・低コストといった利点をより高めることができると考えられます。
低濃度過酸化水素水による点火・保炎の試み
過去にも酸化剤として過酸化水素を用いる研究は行われてきましたが、その多くは80wt%以上の高濃度過酸化水素を用いたものです。ただし、自己分解性を持つ過酸化水素では、65wt%以上で分解熱が蒸発潜熱を上回るため、一度分解が開始されると連鎖的に分解反応が進行してしまい、内圧が上昇し容器破損の危険が伴います。
60wt%過酸化水素は自己分解性がなく、民生品として入手可能です。また、比推力は真空中で290sまで大きくなります。しかし、60wt%過酸化水素は燃焼ガスの多くの部分が水であるために点火と保炎が極めて困難であり、80wt%以下での保炎例はほとんど存在しません。点火と保炎に成功すれば、60wt%過酸化水素はこれまで利用されてきた酸化剤の中で非常に適したものになり得えます。そこで、以下の 3 つの工夫を行うことで、点火に成功しました。
- CAMUI型燃料の採用による保炎性の向上
- 触媒によって発熱分解された高温の酸素による点火
- 溶解ノズルによる点火時の燃焼室圧力の引き上げ

溶解ノズルとはグラファイトノズルの内側に装着する高密度ポリエチレンのノズルのことです。ノズルスロート部に溶解ノズルが取り付けられることでスロート断面積が絞られ、小流量での点火時でも燃焼室圧力を高くすることができます。点火後は熱により溶解ノズルは溶けて無くなるため、本燃焼時には設計通りの燃焼となります。

今後は、以上の点火に関する先行研究をもとに、保炎に関する研究を行っていく予定です。